大判例

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仙台高等裁判所 昭和28年(う)940号 判決

原判決は、被告人が、昭和二十八年四月十二日午後四時頃山形県西村山郡左沢町大字左沢百四十五番地会田光弥方において、同人から、同月十九日施行の衆議院議員選挙に際し山形県第一区から立候補した鹿野彦吉のための投票並びに投票取り纏め方を依頼され、その報酬として金五百円の供与を受けたとの公訴事実につき、被告人の自供以外に該事実を認めるに足る傍証がないとして無罪の言渡した。しかし、刑事訴訟法第三百十九条第二項の規定が、被告人の自白の外に補強証拠を必要とした所以は、被告人の主観的な自白のみによつて客観的に架空な事実が犯罪として認定される危険を防止しようとするにある。従つて自白を補強すべき証拠は、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば足り、必ずしも自白にかかる犯罪組成事実の全部に亘つてもれなくこれを裏付けするものであることを要しないし、又直接証拠であると間接証拠ないし情況証拠であるとを問わないものと解すべきである。そこで右公訴事実に対する証拠関係を検討するに、原審において適法な証拠調を経た被告人の司法警察員に対する第一回供述調書並びに被告人の検察官に対する第一回ないし第三回供述調書によれば、被告人は捜査官に対し右公訴事実全部につき、自白しているのであつて、その自白の趣旨は、被告人は会田光弥の依頼により鹿野彦吉のため選挙運動をするようになつたが、昭和二十八年四月十二日頃会田方に立ち寄り、同人等と選挙の話をした後、同人が「これをやつておくから一生懸命に選挙をやつてくれ」と言つて百円札十枚で千円を出し、なお「半分を宗保君に渡してくれ」と言うので、その金を受け取り、同日午後八時頃松田宗保方に赴き、寝ていた同人に対し「今日会田さんより千円もらつて来たが、半分を君に渡してくれということだから持つて来た」と言つて五百円を渡した。もらい受けた金の趣旨は、実費弁償だけではなく、被告人の選挙運動に対する精神的な激励ないしお礼の意味も加味されているものと思つていたというのである。これに対し裁判官の証人松田宗保に対する尋問調書謄本によれば、松田宗保は、同人が気管支炎で寝ていた日と思われる右日時頃同人方において、被告人から「今日会田方に行き煙草銭がないと言つたところ千円もらつて来たから」と言つて五百円を渡されたので、鹿野のため投票が集るよう尽力することを引き受けたことに対すを謝礼の趣旨と解して受け取つた事実が認められる。右事実は情況事実であり、これだけでは本件犯罪の客観的事実全部を裏付けするものではないが、前記自白にかかる事実が虚偽架空なものではなく真実であることを保障するに足るものと解するのが相当であるから、右証拠は前記自白の補強証拠たり得るものというべきである。而して以上の全証拠を綜合すれば右公訴事実は優にこれを確認し得るから、被告人の自白の外傍証なしとして無罪の言渡をした原判決は、判決に影響を及ぼすこと明らかな事実認定に関し遵守すべき採証の法則を誤つたものというの外はない。

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